

|01|かぼすサーモン
「国産のサーモンって、こうやって育ててるんや。」
最初に訪れたのは、かぼすサーモンや、冬に向けてかぼすフグなどのブランド魚を育てている生産者さん。
ここで初めて「陸上養殖」の現場を見た。
魚の養殖と聞けば、海に大きな網を張り、その中で魚が泳いでいる。自分の中ではそんなイメージだった。
でも、実際に目の前にあったのは、陸上の木造建築の建物の中につくられた大きな水槽。その中を、生きたサーモンが泳いでいる。
そもそもスーパーで見るサーモンは切り身になった状態がほとんどで、ノルウェーなど海外産のイメージも強かった。
だから、生きたサーモンが目の前を泳いでいて、それが大分で育てられていること自体が新鮮だった。
「国産のサーモンってあるんや。しかも、ここで育ててるんや。」
そんな素朴な驚き。
実際に食べたのは、少しレアに仕上げたサーモンカツ。
輸入サーモンのような脂の強さとは少し違う。身質はしっかりしているのに味わいは比較的すっきりしていて、噛んでいるとちゃんと甘みと旨みが出てくる。
淡白だからこそ、カツにしても重たくない。
自分の中にあった「サーモン=脂が乗っているほどおいしい」という物差しとは、また違うおいしさだった。

|02|蒲江の真牡蠣
海の味は、海そのものからつくられている。
次は、今回蒲江につないでくれた友人が育てている真牡蠣。
船に乗って実際の養殖場まで出て、海の上で牡蠣が育っている環境を見せてもらった。
蒲江は豊後水道に面し、複雑に入り組んだリアス海岸を持つ土地。外海からの水の動きと、比較的穏やかな入り江という環境が、この土地の水産業を支えている。
普段、牡蠣を食べるときに「この牡蠣がどんな海で育ったか」まで意識することはあまりない。
でも現地に来ると、海の環境があって、その環境を見ながら人が手をかけて、ようやく一粒の牡蠣になることがわかる。
海が育てて、人が仕上げる。
現場を見ると、その味が単なる商品の特徴ではなく、この海と人の仕事から生まれていることが、少しだけ理解できた気がした。




|03|ヒオウギ貝
「こんな貝があるんや」が、そのまま食体験になる。
牡蠣のすぐそばで養殖されていたのが、ヒオウギ貝。
これは本当に、見た瞬間から面白かった。
オレンジ、黄色、紫。
天然のものとは思えないくらい殻がカラフルで、見た目だけなら食材というより、ちょっとした工芸品みたいでもある。
下関出身で、海産物には比較的触れてきたつもりだったけれど、それでも自分はこの貝を知らなかった。
そして、見た目だけではない。
後で焼いて食べてみると、ホタテより少し小ぶりながら、身質はしっかりしている。噛むほどに貝らしい旨みが出てきて、ちゃんと「貝としておいしい」。
珍しいから食べてほしい、だけではない。
見たことのないものを見て、食べたことのないものを食べて、自分の味覚の引き出しが一つ増える。
その体験そのものを、いろんな人に味わってほしいと思った。
何より、カラフルでかわいい。


|04|巡(めぐり)ヒラメ
ヒラメは、厚切りで食べてもこんなにうまい。
そして印象に残ったのが、河内水産の「巡(めぐり)」というヒラメ。
養殖というと、天然物に対してどこか人工的なイメージを持ってしまいがちだけれど、ここでは餌の工夫や養殖環境への配慮など、「おいしい魚をつくること」と「環境への負荷を考えること」がつながっている。
その考え方も含めて興味深かった。
そして何より、食べ方が印象的だった。
ヒラメといえば、寿司や刺身で薄く切って食べるもの。自分もずっとそんなイメージだった。
ところが今回は、あえて厚めに切って表面を炙り、塩と大分のかぼすを少し。
これが本当においしかった。
厚みがあるからこそ、まず弾力と歯ごたえを感じる。そして噛んでいくほど、ヒラメ特有の上品な甘みがじわじわ出てくる。
「白身魚って、こんなに厚切りで食べてうまいんや。」
食材そのものは知っているのに、食べ方が変わるだけで新しい食体験になる。
このヒラメに関しては、むしろ厚切りで食べてほしいと思った。


知っていたのは、名前と味だけだった。
サーモンも、牡蠣も、ヒラメも、これまで何度も食べてきた。
けれど今回、育っている場所を訪れ、生産者さんの話を聞き、その土地で食べてみて気づいた。
自分が知っていたのは、食材の名前と、売り場に並んだあとの姿だけだったのかもしれない。
どんな環境で育ち、どんな人が手をかけ、どんな食べ方で魅力が引き出されるのか。そこまで知ると、いつもの食材にも、まだ見たことのない表情がある。
知らない食材を食べることだけが、新しい味覚との出会いではない。
知っていると思っていたものを、もう一度違う角度から見てみること。その先にも、自分の味覚を広げてくれる発見がある。
蒲江で出会ったのは、初めての食材だけではなく、「知っているつもりだった味」の、その先だった。
